ミャンマー軍事政権による日本人ジャーナリスト, 久保田徹さんに対する不当な有罪判決に抗議し, 無条件即時釈放を求めます。

ミャンマーで拘束中の久保田徹さん。ドキュメンタリー作品を撮影するため現地入りしていた。(友人提供)

国軍が軍事クーデターで全権を握ったミャンマーの首都ヤンゴンで、7月末に軍への抗議デモを取材中に拘束された日本人ジャーナリスト、映像作家の久保田徹さんに対して、軍事政権下の裁判所は10月5日に扇動罪などの罪で禁錮7年の判決、12日には、観光ビザでジャーナリスト活動を行ったとして入国管理法違反で禁錮3年の判決をそれぞれ言い渡しました。刑期は計10年となりました。久保田さんはヤンゴンで政治犯の収容先として知られるインセイン刑務所に収監されています。

私たち「危険地報道を考えるジャーナリストの会」(危険地報道の会)は取材者の立場から、久保田さんの拘束と有罪判決は、ジャーナリストの取材活動を妨害し、「知る権利」に保証する報道の自由を侵害する暴力として抗議し、久保田さんの無条件即時釈放を求めます。日本政府には日本人ジャーナリストへの不当な有罪判決に抗議し、久保田さんの解放に全力であたるよう求めます。

ミャンマーでは2021年2月1日、国軍がクーデターを起こして、民主化指導者アウンサンスーチー氏ら民主派勢力の政治家を逮捕して、同国の民主化プロセスを挫折させました。軍支配に対してはミャンマー国内で市民による大規模な抗議運動が広がりましたが、軍や治安部隊はデモ隊に銃撃するなどして多くの市民を殺害し、さらにデモ参加者や民主・人権活動家を手当たり次第に拘束し、拷問するなど人権侵害と言論弾圧を続けています。今年6月、国連人権高等弁務官は国連人権委員会でミャンマー情勢について、クーデター以来、1万3500人以上が拘束され、1900人以上が殺害されたと報告しました。

ミャンマー軍事政権は人権侵害や民主化弾圧の事実を隠蔽するために、報道機関やジャーナリストへの弾圧を強めています。国際NGO「国境なき記者団」(RSF)によると、10月10日までに29人のジャーナリストが有罪判決を受け、さらに68人の報道関係者が拘束されています。久保田さんへの不当な拘束や有罪判決は、そのようなミャンマーでの言論弾圧の一部であり、特に日本人ジャーナリストを拘束し、有罪判決を下したことは、自国の現状が日本の人々に知らされるのを抑えるためであり、決して許されることではありません。

日本政府はミャンマーに対して2011年―2020年の10年間で、100件を超えるODA(政府開発援助)の無償資金協力を実施し、総額は1400億円に上ります。クーデター前には400以上の日本企業が進出していました。クーデター後も日本政府はミャンマー軍事政権と関係を継続し、9月の安部晋三元首相の国葬では、軍事政権の代表が招待され、出席しました。日本人ジャーナリストの久保田さんが日本と関係が深いミャンマーの現状を日本に伝えるために現地に入って報じることは私たち日本国民の「知る権利」に寄与するものです。

久保田さんは観光ビザでミャンマー入りして取材活動を行ったことが罪に問われました。しかし、現在のミャンマーのように国内の報道や取材活動を制約し、外国人メディアやジャーナリストに取材ビザを厳しく制限する国々で、外国人ジャーナリストが観光ビザで入国して現地で取材することは、世界でも、日本でも、新聞・テレビなどの組織メディアにとっても、フリーランスのジャーナリストにとっても、取材を行うための方法の一つです。また、取材ビザを取得すれば、滞在中、当局による監視がつく国々もあり、自由な取材を行うために敢えて取材ビザを申請しないで観光ビザで現地入りし、現地の人々と接触することもあります。

当局が報道を規制し、制約している世界の多くの国々で、どのように取材し、その現状を伝えるかは、メディアやジャーナリストの課題であり、観光ビザでジャーナリスト活動をおこなったことで、久保田さんが取材のルールに反したと非難される理由はありません。

報道によると、磯崎仁彦官房副長官は記者会見で久保田さんへの判決に対して、「政府としてミャンマー当局に対し、久保田氏の早期解放を引き続き求めていく」と述べましたが、日本政府は判決に対して正式の声明は出していません。一方、米国人ジャーナリスト、ダニー・フェンスター氏が2021年11月に久保田さんと同様に入国管理法違反や扇動罪で11年の刑を言い渡された時、米国務省は「ミャンマーの軍事政権による米国人ジャーナリスト、フェンスター氏に対する判決は無実の人間に対する不当な有罪判決である。米国政府はこの決定を非難する。我々はフェンスター氏が無事に家族の元に帰還するまで、即時解放に向けて働きかけ続ける」との声明文を発表しました。フェンスター氏は判決から3日後に釈放されました。日本政府に対しても、同様の毅然とした姿勢で久保田さんの問題に臨み、即時釈放を実現することを求めます。

私たちは久保田さんへの有罪判決はミャンマーでの市民に対する深刻な人権侵害の一部であると考えており、日本の政府、企業、市民社会が、久保田さんの釈放とともに、ミャンマーが一日も早く、市民への暴力と言論弾圧を終わらせ、民主化プロセスに復帰するよう、あらゆる手段を使って働きかけるよう求めます。

2022年10月21日

危険地報道を考えるジャーナリストの会
(世話人)土井敏邦/川上泰徳/石丸次郎/綿井健陽/五十嵐浩司/高橋弘司